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今日の千菜

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今日(きょう )千菜(ちな )

(なん )斯樣な(こんな )(こと )( )つて仕舞(しま )うたんやらう……」

(やす )(かる )木組(きぐ )みの雛形(ひながた )(いへ )とは( )へ、千菜(ちな )( )(をさな )(おの )( )(たけ )(なかば )(およ )ばんとする大物(おほもの )(かつ )(なが )(だれ )( )らぬ(のぼ )(ざか )(みち )にて(みづか )( )うたり。


(いま )より數時閒(すうじかん )(まへ )千菜(ちな )母親(ははおや )が「部屋(へや )物置(ものおき )(たな )(うへ )( )らぬ(もの )をば( )てて( )( )らさむ」と( )( )みき。( )れを( )いたる千菜(ちな )(はじ )めに(あた )りては(なん )異論(いろん )( )かれば(ただ )「うんうん」と(うなづ )きたり。蒸鍋(むしなべ )古著(ふるぎ )寫眞機(しゃしんき )母親(ははおや )家族(かぞく )(まへ )にして( )てむとする(もの )( )次次(つぎつぎ )( )げて( )きつつ( )(とき )千菜(ちな )顏色(かほいろ )( )はりき。

( )(ちひ )さな(いへ )( )てう」

母親(ははおや )( )(かほ )(まま )千菜(ちな )(はう )に向いて( )ひたり。( )れは(いま )(おい )ては( )(ひさ )しく押入(おしいれ )(なか )( )りて千菜(ちな )( )れを(もてあそ )(こと )( )( )りたる雛形(ひながた )(なり )( )れども千菜(ちな )( )れを( )らぬ(もの )とは(おも )ひも( )らざりたり。

「え、(なん )で?」

(なん )( )て、彼方(あんた )( )(あそ )ばへんがな。( )うやらう?」

(はは )(こた )へに千菜(ちな )當惑(たうわく )せり。刹那(せつな )に、(もの )(もの )(つね )使(つか )(つづ )けねば(ただ )ちに( )てらるる無情(むじやう )有樣(ありさま )腦裡(なうりあたまのなかのなか)(よぎ )りたり。(たし )かに( )玩具(おもちや )千菜(ちな )にしても( )押入(おしいれ )より取出(とりい )だす思ひ構へ(おもひかまへかねてさだむ)( )らざりし(もの )(なが )ら、其處(そこ )( )ると、何時(いつ )( )ると( )(おも )へばこそ(やす )んじて愛想(あいさう )( )( )らしつつ( )りたり。(それ )(いま )( )つと( )はるれば(おのれ )一片(ひとかけ )(はは )( )( )りて( )てらるる心地(ここち )ぞしたる。

(いや )や、( )てんといて」と( )ふも(をさな )かれば言葉(ことば )(たく )みに(はは )口説(くど )(こと )(あた )はざりき。於是(これにおいて )(なほ )足搔(あが )千菜(ちな )(あたま )(あん )( )ぶ。

( )(ばあ )ちやんの(いへ )( )つて( )かう」

千菜(ちな )祖母(そぼ )一人(ひとり )(ぐら )しにて(いへ )(ちひさ )(なが )らも(もの )(すくな )かれば( )きは存分(ぞんぶん )( )りたり。(はは )( )れを( )りては「(むか )うの迷惑(めいわく )になる」とは咄嗟(とっさ )( )(づら )かりたれば「(むか )うに( )つて( )くのしんどいは」と(こば )みたり。

(くるま )(はこ )んだら( )ぐやん」

千菜(ちな )( )ひつ。千菜(ちな )(はは )心積(こころづも )(など )( )らざり。(おの )一片(いちへん )家族(かぞく )にとりても(おほ )いに(せま )(もの )(はず )千菜(ちな )にとりては目的(もくてき )(くら )べて( )(らう )(わづ )かの名案(めいあん )(なり )。……( )れど(はは )難色(なんしょく )(しめ )しつ。千菜(ちな )(やが )(はは )大切(たいせつ )なる(もの )(ため )にも努力(どりょく )( )(なま )(もの )(いら )(だりつ )(はじ )めたるも、(はは )( )むるは(こころ )(さか )らふ(ところ )( )れば(たす )(ふね )( )ださるるを(のぞ )みて(ちち )(はう )(かほ )( )けたり。

千菜(ちな )( )(はは )さんが( )(まへ )(ため )にも部屋(へや )(かた )( )けたいと( )うてゐるんやから協力(けふりょく )しなさい」

( )言葉(ことば )( )( )千菜(ちな )全身(ぜんしん )(しんすぢ)(とほ )つたが(ごと )憤然(ふんぜん )( )( )足音(あしおと )( )らしつつ大股(おほまた )にて押入(おしいれ )( )かひたり。


(ある )いは(ちち )千菜(ちな )に「( )(まへ )(ため )に」とは( )はざらば千菜(ちな )( )( )さざりたる( )( )らざりたり。

(さか )(みち )( )(すす )みて(すこ )( )たば鋪裝路(ほさうろかざりしきたるみち)も切れ、砂利(じやり )(うへ )(あゆ )みつつあり。(からだ )(ぢゆう )(あせ )水漬(みづ )くとなりて(ふく )白地(しろぢ )(ことごと )( )け、(はな )(あご )とから(したた )(しづく )調子(てうし )( )(てん )(てん )( )( )らして( )く。鼻水(はなみづ )(まで )( )れて( )つ。(ふる )へる(あし )( )りは(すこ )(たか )( )げねば( )らぬ(ところ )(あし )( )がらず(つひ )(とま )まる(こと )となりたり。

(なん )斯樣な(こんな )(こと )( )つて仕舞(しま )うたんやらう……」

千菜(ちな )(かんが )( )だしつ。自分(じぶん )(いま )(なに )( )てゐる( )( )れを( )つてゐたればこそ、( )( )にゐた(だれ )よりも痛感(つうかん )したればこそ(いま )( )( )(おい )(おや )(さか )らひ(ひと )(たたず )みて( )れ。(いま )一度(ひとたび )(みづか )納得(なつとく )せむと(おも )(めぐ )らさば忽焉(こつえんたちまち)として( )( )ひ表す言葉(ことば )(わす )れり。立止(たちど )まりつつあれば(あせ )( )(はだ )(ざむ )くなりぬ。自分(じぶん )( )(こと )( )つつある。( )れば何故(なにゆゑ )斯程(かほど )(こころ )(ぐる )しき( )(いへ )手傳(てつだ )(など )にも(つか )るる(こと )多多(たた )( )りたり。( )れども( )れが(をは )れば家族(かぞく )( )(ねぎら )うて( )れむと(おも )はば(いや )なる(こと )にも( )甲斐(がひてごたへ)てふ(もの )( )りたる。(いま )( )れに( )れは( )し。( )(さき )(おや )( )(かほ )( )くて、(つか )れは(ただ )(つか )れの(まま )(なり )千菜(ちな )(はは )(ちち )も、(だれ )(よろこ )ばぬなら(われ )(あやま )たむ( )とも(おも )(はじ )む。(もと )より(わが )(まま )( )ふは( )しき(こと )(こころ )( )たれば(なり )( )れど( )(かへ )すには( )(はや )(とほ )く、祖母(そぼ )(いへ )(はう )(ちか )し。(ゆゑ )(いま )一步(いちほ )( )( )ださむと( )れども(こころ )(まよ )( )れば愈愈(いよいよ )( )(あし )(おもし )し。(つか )れて(からだ )(とま )まらば意氣(いき )(しづ )み、(こころ )(すく )みて(また )(もつ )(からだ )( )まるはいとも(あぢ )のある絡繰(からくり )(かな )(あぢ )( )し。(ただ )( )(しづ )(まで )( )( )(とど )まる(こと )祖母(そぼ )だにも(よろこ )ばぬ( )しき(こと )てふ明らめ(あきらめみとほし)( )千菜(ちな )(すす )( )だしたり。

(かぜ )(そよ )(ただ )砂利(じゃり )( )(おと )(ひび )く。千菜(ちな )はふと( )(こころみ )上手(うま )(はこ )びたる(あと )(こと )(かんが )(はじ )む。(はは )( )(もの )千菜(ちな )( )らぬ(もの )との(はざま )なる( )( )(べか )からざる(もの )(ひと )つが無事(ぶじ )(たも )たれたらば(さきは )ひならむと千菜(ちな )(おも )ふ。

( )(かあ )さんは( )らなんだんや)

(ただ )其處(そこ )( )るのみにて(おのれ )幸福(かうふく )( )(もの )( )(こと )を。「(おや )(なに )をも( )りたる(はず )(なり )」、( )(をさな )期待(きたい )裏切(うらぎ )られたれば千菜(ちな )困惑(こんわく )しき。( )れからは(おのれ )( )りたる(こと )(おし )えて( )げう。以前(いぜん )(みち )( )いてゐたる(はな )( )(おし )えて( )げた(とき )(ごと )く、(おの )(かしこ )(ところ )( )せば(かなら )ずや(はは )(よろこ )び、(くら )しも(もと )?(もど )(はず )千菜(ちな )( )(おも )へば(にはか )( )大切(たいせつ )(もの )(いま )(まで )(たも )たれてきた(こと )有難(ありがた )(おも )(はじめ )めさへせり。祖母(そぼ )(いへ )(ちか )くなりぬ


卷末

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