いつもの仲良し四人組、其の内の一人𥳑野熊が實家から霜の降りたるが如く脂の乘つたる肉をば送らるれば、今宵は珍しく少女のみにて鋤燒を以て鍋を圍む運びと成り
「別に「内所來さい」と言うて居らんぜ。」
四人皆座に著きたる後に態々斯う云ふ。他の三人「此の佛頂面娘も隨分家等と打解けたり」と見て心安う爲。然うしたる所にて鍋も熱うなりたる。内の一人、白川都流伎部屋の主に入るべき斷りに變へて「先づは油を引きまして」と態々聲に出しながら菜箸にて牛脂を摘まみて鍋に引く。次いで肉を入れ解いたる後は鍋の片側に寄せ、絲蒟蒻、燒豆腐、麩等にて隙閒を埋む。一往の具を入果てれば、然も當然の如く都流伎の向かひ側より下川廣が鍋に砂糖を塗し始む。「夫婦乎己等」と熊思へけり。廣は續けて醤油を砂糖の上に掛け、其上に酒を掛けて自づから糖油の溶くるを待つのみに爲て「うむ」と都流伎等に調理の終えたるを示す。酒が入りて少しく鳴りを潛めたる鍋は暫し後再ぐつぐつと音を立つ。
「頃合でござる乎喃、奉行殿」と都流伎が言へば熊は「はいはい」と應じて居住まひを正して靜かに手を合はす。其れに合はせて他の者も手を打ち鳴らして合はす
「頂きます」と四人は言ふと先づ卵を手に取る。然れども其の内の一人、英絲麻は鍋に少しく隙閒を作りて片手にて卵を割り入れたり。三人は驚きて目を見張りて「え」と聲を上ぐ。
「……何どす乎皆樣」
暑き夜、日は今落ちたるばかりなり