「話は聞かせて貰つた。日本は再興する」
「何よ藪から棒に。確かに永野元帥閣下も「戰はずの亡國ならば實の亡國なれども戰ひての亡國ならば我等の子孫は必ずや再起三起せむ(大意)」と仰つたさうだけど……」
「皇國の興廃の分れ目は唯一つ。殖產興業富國强兵だ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……で?」
「今回榮え有る我が帝國は二五六〇年(明治三十三年)に立ち歸り、欧米に比して遲れ勝ちであつた重工業、
(今回は……)
「然うぢや
「其れは商工省の管轄違ふのン」
「自動車產業興すのも商工省の仕事でせう!」
「中島知久平元海軍大尉が下野されて興された中島飛行機みたいな者乎知ら」
「先ア其んな所だ」
「大切なのは今で解決すべき事は將來の事よ」
「なアに、内等元々電子遊戲の自作武將やし、現代に生きてゐるとも戰中に生きてゐるとも著かんあやふやな者や。此處は一つ成り切つて往かう。温故知新とも言ふし喃。遊び乍ら歴史の時の道を行く旅と言へぬ事も無い」
「ぐぬ……解つたはよ」
(手持の金が
(其れは一國政府でも自在に制馭し得る者では非いは
(心を讀まれた!?乎?乎?乎)
「よし みんな きけ。此の地圖の上の赤い點が工場及び支店を建て得る所だ。此の中から一つ選ぶと其處を本店として本作戰が開始される」
「意外と多うございますは
「然うだ。向後絶對の支障が無い限り國外に工場は建てない」
(東京は嫌や東京は嫌や……せや!)「やつぱり此處は大阪
(善し)
「否、此處は京都を本據地と爲る。合理的な理由は無いが
(惡し)
「然うなんや」(京なら善え歟)
「因みに此方が主立つた都市の樣子となつてまアす」
「英米と比べて隨分な格差がございますはね」
「年収約百
「御手頃價格で一千弗程やで」
「は?ぢやあ令和ならまともな八人家族向け新築一戸建てを買ふ位の負擔ぢや非い。其んなんで本當に國内で自動車賣れるの?」
「否、此の所得と言ふのは恐らく生活費等
「社名は然うだ喃……「帝國發動機有限會社」。社章は我國では飛躍の象徵として喜ばれ、善く紋樣の意匠に用いられる兎にしよう。此れから
「自動車會社の規模で有限會社なの?」
「川崎造船も個人經營から株式會社に切り換へるのに長かつたし其んな者ぢや非いの?」
「此處が社長室乎喃」
「偉く近代風ね」
「我社の設立が報道されとるで」
(日曜日に同じ樣な事故が二つ發生しとるのが氣に爲る)
「親切な副官……では非く、誰乎が置いて呉れた
「はい社長殿」
「む、陸軍は何うやら自動貨車を求めて居る樣だな」
「先ア軍隊ですし
「因みに海軍は何う爲つてゐるん?」
「海軍が求めてゐるのは小型艇用の發動機。自動車以外も發註が在るの
「お、おい、陸軍の二つ目……何や燃料の種類「水」て。
「
「其の「眞乎」が存るんやで。此の世界には」
「え?」
「ふふ」
「く……」
「否、無い。此れは蒸氣機関を指し示してゐる」
「貴方等喃エ……」
「蒸氣自動車なんて在りますの?」
「
「漫畫ぢや非いのよ!」
「我國に於けるチキチキマシン猛レースは
「何と言つても世界初の自動車は佛蘭西に於て發明された蒸氣自動車だ。キュニョーの砲車と言つて外ならぬ大砲を運ぶ物だぞ。砲兵出身」
「あら恥かしい」
「マッハゴーゴーゴーの終はりの唄で出て來た物やらう。内知つとる」
「此れも漫畫ぢや非い!」
「
「ぐ、」
「
「次回に續く」
「此處だ」
「結構狹いんですの喃」
「街中の整備工場言ふ風情や喃」
「此處では自動車及び其の部品の設計、他社との
「現時點では何が作れるの?」
「何も」
「え?」
「此方去年の我國の乘り物と爲つて居りまアす」
「見事に自動車だけ存りませんは喃」
「あ、右に描かれてゐる「機械ポンプ」言ふのが
「何うだらう喃。其れに爲ては操縱部が見當たらんが……車輪を著けた給排水
「……欧米で自動車が世に出て來たのは
「發明なら百四十年程前、民閒の乘合自動車が七八十年程前、ガソリンを使ふ内燃機關車が十年と少し程前や喃」
「遲れ過ぎでせう!?何で輸入品も無いのよ。鐵道は存るのに」
「道が無いから違ふ乎」
「何で道が無いのよ!」
「文明國と認められんが爲に喃、東京だけでも恰好著ける爲の喃、其の煉瓦すら米國から輸入したり爲る有樣で喃、最う帝國の豫算は
「欧米も條件は同じでせう!本場の
「切り口は色々存るけど強いて言へば内等には馬車の文化に乏しかつたから」
「え?」
「馬車利用の文化に乏しいさかいに道幅也交通規則也、其れ故の
「にぎぎ……けど鐵道の輸送力には直ぐ注目したのに何故もつと安さうな輸送力に力を
「逆やで、我國は道の上に車輪を轉がす方が何乎と懸かるんや」
「え?」
「地は柔らかく氣候は湿潤で雨が降ると中々乾かぬさかいに道の方が車輪に得う耐へん。馬車は愚か大八車でさへ制限が存つたさかい喃。御負けに坂は険しいと來とる。道整へう思うたら國中掘り返して石敷き詰めな往かぬ。其んだけしても舟の方が速いし儲けの出る内陸の大都市と言へば京都とか限られた所だけ。鐵道を
「むぐ、」
「禍福は
「解つたは。其れで一から始めるとして、何う爲るの?外國企業から使用權を借つて作りながら
「否、今回は部品開發から組立設計迄全て自社で行ふ。純國產だ」
「ええ!?」
「お♪好えがな好えがな。其の意氣や」
「輸入販賣、外資の現地法人、組立請負、賃貸生產、國産車設計、部品製造、全部飛ばすん乎……」
「期限は來年の七月。大和魂を奮ひ立たせよ」
「ひひ、外國の下請なんぞ
(先刻、文明と文化とが
「で、先づは自動車を構成する各部の設計開發から行ふ。夫々「
「仕掛……?」
「英華和譯字典から採つた」
「ほんなら
「必殺は何處から來たのよ」
「ロングマン英英辭典に依るとエンジンは遡ればラテン語の
「IT土方の方々も今日も今日とて「メモ帳」開いて仕掛を作つて居られますは喃」
「漢語では車體部、機關部、變速機だつた乎」
「具と書いてえものと言ふのは?」
「其の儘そなへと訓ぶのも良かつたが、ギヤの使はれ方を見ると得物の方がしつくり來る」
「あらまあ」
「……來ぬ事も存る」
「何やねん」
「飜譯である上は完全一致は望む可くも無い。其の邊は其の都度腦を働かせれば良い。飜譯にも種類があつて「目の前の現物を見て場當りに譯す」のと「向うの言葉の其の歴史體系や廣い用例やを見て此方の言葉から最も近いのを當てる」のとが存る。前者なら齒車だな。然し、ランディングギアは著陸の爲の裝具で齒車では非いし、キャンピングギヤは旅の道具だし、レインギヤは雨具だ」
「ガイアギアは?」
「政爭の具でせう」
「え♪道、見た事存るん乎♪」
「無、い、は、よ。如何とでも言へる事を言つた迄よ」
「く、惡い女に成りをつて」
「日を置いてゐる閒に作品の版が代はつたので始めから仕直しだ」
「今の版は一.二五.0.一一ノ
「なんちう版の附け方や……」
「所で、仕直しになつた事で白耳義陸軍からの募りが無くなつたけど……」
「うおおおおアメちやん目ッ茶發註するがな!桁違ひや喃」
「亞米利加は單價は低いが發註數は多い傾向が存る。
「電氣と言ふのは其の儘電氣自動車の事ですの?」
「ああ」
「時代を先取り爲過ぎやらう。電氣自動車なんて最近に至つて
「否、電氣自動車は此の頃にこそガソリン車と張り合つてゐた。大會で競走とかも爲てゐたし喃。然し電池の保ち等の性能面で競り負けて、向う百年
「電動車が存るのは百年前でも變ぢや非いは。ベルヌの海底二萬
「ふうん。道も漫文とか讀むんや喃」
「文句存るの」
「無し!」
「然し、入札日の
「アメちやんの方には行けたら行くウ言ふ事で」
「其れ……」
「扨、
「骨組ですは喃」
「此れを何でも良いから決める。
「此れは……骨組の設計に因つて乘せられる仕掛に大きさの制限が有ると言ふ事ですは喃」
「然うだ。其して
と言つた所だ。
「成程……判らん。V八ヘバル言ふ漫畫が在つた樣な……後、マリオカートでアイルトンセナがV十六を使うてゐて……」
「……コミックボンボンや其れは」
「ええと、「いすゞ傳統のV八エンジンが排瓦斯規制で直列六氣筒ターボに成つたけど力不足で……」」
「誰乎の受け賣りでせう?」
「ええ」
「八とか十六とか言ふのは氣筒の數。
「獨逸人が發明♪」
「亞米利加人が實用化」
「伊太利亞人が飾附け♪」
「本邦人が小型化……は必要無い。航空機開發競爭も發動機の大型化で負けたのだから喃。結局、最大性能の追求こそが勝利の鍵だ。我國の人は「此れを作れ」と示された物を上手く作れても、此れから創る可き物を考へる事に於いて劣るのだ」
「……」
「永井荷風曰く「一大の流行、西洋を向かうるに當り(中略)予は、然程に自由を欲せざるに猶革命を唱へ、然程に幽玄の空想無きに頻りに泰西の音樂を説き、然程に知識の要求を感ぜざるに妄りに西洋哲學の新論を主張し、或いは亦然程に生命の活力無きに徒らに未來派の美術を向かうるが如き輕擧を恥づ」」
「夏目漱石の三四郎にあつた「未だ富士山を見た事が無いでせう。今に見えるから御覧なさい。あれが日本一の名物だ。あれより外に自慢するものは何も無い。所が其の富士山は天然自然に昔からあつたものなんだから仕方が無い。我々が拵へたものぢやない」と言ふ者だ」
「ふん!其れで外人は然程に自由を欲して幽玄の空想を懷いて知識の要求を感じて生命の活力を持つた連中で、世界も未來も文化も創り出せる「一流民族」と言ふ事ね。上等ぢや非いの!相手が何だらうと内は内よ!思ふ所なんて何も無いは!」
(トゥンク……)「……好きやで、道」
「氣持惡いは喃」
「次回に續く」
「先づ仕掛の最も小さいのと最も大きいのとを比べて嘗よう」
「前回言うた通りや喃。大きく爲れば爲る程出力が上がる」
「序で最大の設計から氣筒の
「ほえ?馬力が四十九から六十迄上がつた」
「何の仕掛も最大馬力を摸索するなら此手に限る。設定項目が多岐に亙る部品設計に於いて自分で
「何う爲たの?」
「設計作業中の畫面を撮り損ねてゐた。三部品全部……」
「ええ」
「……えー、其して完成した物が此方に爲ります」
「三分クッキング乎喃」
「成程……判らん」
「先ア、次回作以降解説して行く。
「ちよつと!何う爲つてゐるのよ!」
「!?」
「!?」
「!?」
「一番大きく設計したのに英海軍の要求性能に全然足りないぢや非い!」
「排気量六萬CCとは豪氣ですは喃」
「其れでも百三十五馬力が漸つとよ!七百馬力
「ああ、今の我々の技術力では何う足搔いても作れない要求も存る」
「ぐぬぬ、列強を見返して遣らうと思つたのに……」
「……」
「其の意氣や好だ。氣を取直して行かう。設計が一通り終れば後は果報を寢て待つのみだ」
「ポチッとな」
「少女寢待中」
「其處は
「因みに斯うして研究費が月々引き落とされてゐる内は技術力も上がつて行く」
「御飯炊けたでえ~」
「わあい」
「
「此處では性能の微調整の外に外見も決める。此れが素體だ」
「……」
「此れを軍用にして品の有る色に爲る」
「眞ッ黑?茶褐とかで非く?」
「今内等が來て居る樣な服は日露戰爭時の臨時服制からや。其れが後にも正式採用される樣に成る。其れ迄は陸軍も海軍と同じく常は紺夏は白やつてんけど喃」
「呼びました乎」
「未だやで」
「然うして彼アして斯うして……」
「斯んな者だ喃」
「ううん……最う一つさはりが無うございますは喃」
「然う乎?私としては隨分凝つたんだが喃。先ア軍用だから難が無いのが良からう。」
「天井もたつぷり有るさかい何んな長身の方でも大丈夫や喃」
「「大猿」と名附けう。後は再び待つだけだ。完成は……うん……? あ!」
「何?
「閒に合はん……全力を擧げても英米への應募期日の閒に合はん」
「
「其んなんサイヤ人が地球に來る時の界王樣でさへ一日超えやのに」
「落ち著け、將帥は
「似た樣な要件の電動車と内燃機關車とを發註して何方が立ち行かなくなつても良い樣に爲てゐるのね。愼重と言ふ乎、餘裕が有ると言ふ乎」
「なあ、
「……」
「……」
「……」
「……先ア、伊太利亞も幾つもの國々が合併したばかりの國だし喃。複雜な内部事情でもあるんだらう。良し、此の伊太利亞と墺太利との募りには閒に合ひさうだ。此れで行かう」
「資金は足るの?
「其れあ……最う……
「今の私達は民閒企業でせう!軍票抔か出せないはよ!」
「然うだ、軍票だ」
「え!?」
「え!?」
「私の見積ではギリギリだが大丈夫だ。社長室の金庫を開けて呉れ」
「此れや喃」
「お♪現金存るがな」
「へえ、……好いは喃」
「お、何う爲たん?拳銃
「違ふはよ。
「此處では金融を扱ふ。今回は
「銀行から金借るのは解るけど、社債?」
「社債は會社が發行して人から金と交換する券の事よ。勿論期日には利子附けて會社が交はし戾さないと行けないけど。民閒企業が出す「軍票」と言つた所乎知ら」
「成程、物資と違うて金を買ふ軍票言ふ事乎。解るで」
「
「此處では銀行融資は月々利息を拂い乍ら少しづつ返して行くべき借金。社債は期日に耳揃へて全額返す借金と覺えて置くと良い」
「期日が來ても返せへん時は?」
「此れやらう喃ア……」
「痒い所に手が屆きますは喃」
「手始めに社債三十万弗、發行、と」
「ちやりーん♪」
「更に銀行から目一杯十四万弗借入れ、都合四十四万弗調達したぞ」
「英領印度銀行が日本に貸附……」
「其れでは來月迄待つて嘗よう」
「うん?大猿が出來上がる迄の一年閒月々九萬弗弱掛かるなら百万弗近く掛かると思ふけど……」
「何、奧の手が有る」
「本當かしら」
「ほんで九ヶ月後の明治三十四年四月……」
「ちよつと!やつぱり足りないぢや非い!」
「御覺悟召されよ……」
「待て慌てる
「泣き落とし歟」
「巨額の融資だから貸し手も破綻認定し辛くて泣いて貰つてゐるだけぢや非い!」
「借りが大き過ぎると寧ろ返さなくても良いと言ふ事乎知ら?」
「黑帳簿入り確定や喃」
「半年後には車も完成してゐるし契約の
「本ッ當にギリギリ喃」
「二ヶ月後…………」
「……内、胃がキリキリ痛んで來た。金を借るとか爲た事無い……。」
「金は借らねば文字通り元も子も在りませんはよ」
「然んなん言はれても自分で稼いだ分こそ
「庶民感覺ですは喃。借金してでも小作に作らせた米は賣れますし食べられますけど、金は自分で稼いだ物でも食べられませんはよ。金は
「うーん、せや喃……人が生產して
「其れは共產主義や」
「未だ何も言うてへんで」
「良し、完成したぞ。早速入札だ」
「大分性能過剩や喃」
「ちよつと張り切り過ぎた歟。此の性能は競合他社を牛蒡拔きだらう。此の化物車を採らぬ理由が在らう乎、否無い」
「大は小を兼ねる、と言つて良いの乎知ら」
「要件は滿たしてゐても求めてゐる者とは違ふと乎言はれさう」
「腕時計を頼んだら腕卷き電算機持つて來られた樣な者
「結果は來月乎」
「……え?」
「落ちた……の?二つ共」
「此れ、何うなるん?」
スウーー……
「消えないでよ」
「何やら邊りが暗う成つて來た喃ア……」
「來月が返濟期限……」
「ぐ、軍人たる者は最後迄粘り強く、諦めへん」
「來る訣無いはよ!」
「無念」
「……と言ふ事に成らぬ樣に資金繰には心を碎かざるべからず」
「ああ、
「初月から手始めに社債七十万弗分と銀行から二十七万弗とを調達し、現金と合はせて百七十万弗から始める」
「あら、百万弗近くも借れるの!?以前は四十四万弗が目一杯だつたのに」
「今回は未だ持金に手を著ける前だから喃。金を貸す方も資產の多い者にこそ多くの資金を貸して良いと言ふ訣だ」
「金が金を呼ぶ喃ア……」
「型番も上がつたし(二.0.0.0ノ
「信用共與?再訣の解らん言葉が出て来たで」
「代金を業者の
「金で金を買ふ(
「は~最うわやや。手形も借用も立替も、結局は同じ借金やらう?何で
「さあ知らぬ」
「二回目の新會社設立」
「前回と比べて妙に未來派の建築ですは喃」
「では前回と同じ所は省略して……と。ほい」
「何乎前と飾り附けが違ふは喃」
「同じ物を作り直すには心が砕かれて仕舞つて喃。此れは出來合ひの物の色を變へただけだ。大猿二と名附けたぞ」
「わかる」
「然う言へば以前に「開發期閒を縮めると費用が跳ね上がる」とか言つてゐたけど、今回は三箇月延ばして十五箇月取つて有るの喃」
「へえ、其れで御値段は……二十萬!?前回の十分の一やがな!」
「いや先ア、今回は各部品も前回に比べて低價格の設計にしてあるので喃。實際は三分の一から五分の一位だ」
「工期が短かければ外注先にも特急料金で頼み勝ちですから乎知ら」
「扨、開發は終はつたが、未だ隨分資金の餘裕が存る喃……よし!最う一つ開發せう」
「豫定の空白に得う耐へん戰車屋の鑑」
「其れで勝てる筈の戰ひに負けて仕舞ふのですは喃」
「
「競走場?F一でも爲るん乎」
「然うだ。
「競技は主に發動機の排気量が一萬
「……」
「此の排気量一萬の發動機を搭載した競走車を作らう」
「と言ふ訣で出來上がつた物が此方になります」
「谷型六氣筒六十七馬力だ。
「其して一年後……」
「開發成功だ。完成形設定に移るぞ」
「スポオオウツカア!」
「スポルトは暇潰し。スコラは暇……やつた歟」
「スポーツとスクール。物事を學ぶに當たつて、武道茶道に學問修行たる我國の對極の樣な文化ですは喃」
「然ん樣ので何う言ふ風に爲て人を育てるのよ」
「先ア育つてゐるんだから文化全體で釣合が取れてゐると言ふ事だらう。文化と言ふ者は
「誰が羨ましがつてるつて!冗談ぢや非いは!」
「先ア先ア」
「扨措いて、競走車に高級感だの積載量だのは不要だ。
「因みに、此の機體は齒車が引き出せる
「「此の力を今迄使はなんだのは其の餘りの強さに體が保たんからや……けど、御前を倒す爲なら此の身は
「次回に續く」
「前回は競走用の高速車の開發に手を著けた所だつた喃」
「喃ア、此れ見て嘗イ。内等の車が評價されとるで。」
「爲て遣つたは!内の生喰が一番速いぢや非い!」
「妙だ喃……。開發に著手した許りで發表も試作品も無い筈だが……」
「暗號が何處乎から漏れてゐる喃」
「何を此方見てゐるのよ」
「先ア良い。では早速各國陸軍の
「相變らずの過剩性能」
「陸軍の人そこまで求めてゐないと思ふよ」
「何、明治三十三年に自動車を數百から數千臺發註する先見の明の有る連中だ。恐らくは今後自動車が大いに發展して之く姿が見えてゐるんだらう。大は小を兼ぬ。では生產を開始する乎」
「最う作りますの?契約してからで宜しいのでは」
「否、先の英陸軍の要求だと月一八八臺の納入を求めてゐる。今我々が持つてゐる工場は平常稼働で月產五〇臺足らず、全力稼働で九〇臺がやつとだ。納品が遲れたら契約に應じて違約金等の罰則が存るから喃」
「成程。それでその、平常稼働と全力稼働言ふのは何?」
「此れを見てくれ」
(超スーパー……)
「工場生產では
「良いは。日本製が高品質と言ふ所を見せて遣りませう」
(重工業に强い我國……)
「あら?此の募りは何乎知ら」
「ああ、其れは民閒の競走會の運營に自る骨のみの發註だ喃。見た所製造費に比べて賣値が高い。偶然にも先程完成した「速二五六〇型」が募集要件を滿たしてゐるし、此方にも應募して置く乎」
「賣れるはよ。何と言つても世界最高の機體の物だから」
「其の世界最高の機體は未だ出來てへんねん喃ア……」
「良し、では車輛を作り
「……お、待つてゐる閒に何
「ああ、店の方に一往出して置いたのが一臺賣れた樣だ喃」
「一臺三千弗弱歟……格安車でさへ昭和十年代に
「なに、何時の世も不採算と知り乍ら手を出す物好きな大金持ちがゐる者よ」
「……此方を御見にならないで下さい。其れに然うして
「何たる貧富の差乎。富める者に爵位を與へ、爵位有る者に富を與ふる明治の惡辣なる自由主義――」
「はいはい僻みは其處迄」
「お、次は得物函の上がり……て何乎」
「ああ、今迄作つた各部品の
「何時の閒に
「相手はエンペラーと言ふ者らしい喃」
「契約してから相手の名を知るん乎……」
「先ア、手附金を支拂へば誰でも契約し得るから喃」
「亞細亞の得體の知れん作り手の代物を自國生產する歐洲の會社……随分な冒險派や喃」
「乾坤一擲ですは喃」
「見る眼が有るんでせう」
「月が經つ程に上がりが增えて來ましたは」
「ふ、御客樣も喜んで頂けた樣で何より」
「其して年末」
「お、大猿二が何乎の最優秀賞を受けたぞ」
「亞細亞地域の
「最優秀(參加者一名)」
「北米と歐洲以外は一種も作れて居らぬ樣だし上上だと思はう。今日は此處迄で切り上げる」
「所でこのヨルドンブナットディッシュて何や?」
「其れは恐らくゴードンベネット杯の捩りだらう。明治三十三年から八年に掛けて毎年開かれた國際國對向競走らしい。此の世界では色んな捩りが出て來るぞ」
「餘り更新して居らんから御詫びに情報提供だ。未だ此れが最適とは限らないが參考にしてくれ」
「作中に未だ出て來てへん用語があるが喃」
「其處も先ア、追ひ追ひ喃」